海外に住んでいるときの相続はどうしたらよいのか

海外居住者の相続手続について

相続が開始した場合に、遺言書がない場合には全ての相続にと協議を行う必要があります。このとき、近年の国際化の波をうけて、相続人のうちの何人かは海外に在住している場合があります。こうした場合、どのように手続きを進めたらよいのか、一般の方にとっては非常に分かりづらいでしょう。

海外居住者_外国籍に帰化、または外国籍の場合

海外居住者の相続手続きについて、ここでは、被相続人の子の場合を中心に説明していきます。まず被相続人の子であれば、その子の国籍がどこであろうと、原則として相続権は存在します。こうしたケースとして、被相続人の子が海外へ渡り、婚姻後、当該外国において、帰化する場合があります。また、日本人が外国籍の者と婚姻をした場合、その子は2重国籍の問題が生じますが、仮に日本国籍以外を選択したとしても、これにより相続権を喪失するわけではありません。その根拠は、国際私法における本国法についての判断があります。詳しく説明するのは避けますが、通則法(法の適用に関する通則法)にその具体的な抵触規定があります。
一方で、相続手続を進める上で、遺産分割協議書の作成があります。この書面には記名と押印が必要です。記名の中に含まれる要素は、住所及び氏名です。これは本人性の担保の問題です。また押印はその者の意思表示の真実性を担保します。
ところで、海外においては、署名が本人性の担保と意思表示の真実性の担保の両方を兼ねます。

外国の領事館で手続きする

海外では、特に欧米諸国では押印の文化はありません。そのため、外国において、被相続人の子が、記名押印を行い、これについて印鑑証明書の発行を受けることはできません。
この場合、日本国籍を有する場合には日本の領事館で手続きを行います。外国籍の場合には、元日本人であれば日本の領事館でも手続きが可能です。また、そもそも外国籍である場合はその外国の官憲の証明をうけることが可能なので、その外国の公証人によりサイン証明を取得することができます。細かい論点としては公印証明の要否等がありますが、ここで説明するのは適切ではないので、説明を省略します。
因みに一般に、大使館と領事館の違いを認識していない方が多いと想像します。ここで簡単に説明します。大使館とは、大使が外国で外交を担う事務所をさします。領事館とは領事が自国民のためにその事務を行う事務所を指します。従って、日本人が外国においてサイン証明を取得する場合には、領事館へ行きます。

サイン証明と在留証明の違い_それぞれ何を証明するのか

サイン証明とは、本人性と意思表示の真実性を証明します。在留証明とは、日本人である請求者の日本国法上の住所について証明します。つまり、在留証明とは外国における日本人の住所を証明します。
既に説明したとおり、日本における記名押印は、記名において本人性の担保を行い、押印においてその意志表示の真実性を担保しています。一方で、外国におけるサイン証明は本人性の担保と意思表示の真実性の担保を兼ねるものとなります。
ところで、日本国法管轄区域内での本人性とは、住所と氏名の2つに分解されます。すなわち、「本人」とは住所である所在の一致性と、氏名である名前の一致性の両方がそろうことで本人だと特定しています。一方でサイン証明には原則として、住所についての証明はされません。
遺産分割協議に記載をする際には、外国に居住する場合は、住所と氏名を記載の上、署名をすることとなります。この際に、前述したとおり、日本では本人性の担保に住所も含まれるので、サイン証明と在留証明の2つの証明が原則として必要となります。

海外居住の相続人がいる場合に注意したいこと

海外居住の相続人がいる場合に注意したいこととは、端的に地理的に大きく隔たれているので、その意思の疎通が難しいという点です。日本に在住している場合には、時差もなく、容易に文書のやりとりができるため、意思の疎通は比較的容易に行うことができます。一方で、外国に在住する場合は、距離の問題がありので、なかなかこのようにはいきません。
また、意思の疎通に関連することですが、日本にいる他の相続人が、海外居住の相続人が不在であることを奇貨(好機)として、恣意的な遺産分割協議を作成する場合があります。
この点、海外居住の相続人は注意を払うことをお勧めします。
また、別の注意点としては、海外居住の相続人について意思能力を喪失したり、相続が発生したりする場合があります。この場合、その相続人の本国法がいずれかによって手続きが変わるので注意が必要です。実務的には最悪、現地の弁護士と連携しつつ手続きを進めるという、大変複雑な手続きとなるでしょう。

まとめ

海外居住者の相続手続についての注意点は、地理的な距離の隔絶と、外国における法制度の違いです。近年、国際化が進展し、婚姻関係においても年々国際結婚をするカップルが増加しています。子の引き渡しに関するハーグ条約の締結もあり、国際化における種々の問題が日々生じているのが現状です。
海外居住者の相続人がいる場合は、早期にこの者と連絡をとり、手続きについて連携していくことが必要となります。ここでの段取りを怠ると、無用な時間の経過や、その後の更なる相続の発生へとつながり、問題をより複雑化させます。
海外居住者の相続手続の問題は現代ならではの問題です。
我々としては、冷静にこの問題と向き合っていくしかないでしょう。

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