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相続人に連絡が取れない場合がある
毎年10万人の行方不明者がいるともいわれるほど、世の中には突然に、連絡の取れなくなる方々がいます。これは、相続人についても例外ではなく、誰か1人は連絡がつかないという場合があります。
このように相続人でありながら連絡が取れない場合には、遺産分割について話し合いをしたくても、本人と連絡がつかないので進めることができません。
相続人中に連絡の取れないものがいる場合には、相続手続において大変な問題となります。
不在者を除いて手続きを進めることができるか_遺産分割協議は全員参加?
遺産分割協議は、相続人の全員で行わなければなりません。その理由は共有物に関する取扱いに準じて考える必要があるということです。つまり、共有の相続財産全体について分割する協議をするためには、必ず全員での協議が必要だということになります(参考条文:民法251条)。行方不明者であっても、権利義務の主体であるという法的地位は喪失されないと考えられるからです。
行方不明者をどうするのか
既に説明しましたとおり、遺産分割協議はその相続人の全員で行う必要があります。また、1人を除いた遺産分割協議は原則として有効ではありません。
このことは、相続人中に行方不明者がいる場合も同様です。なぜならば、この行方不明の相続人にも、相続人としての地位があることをその理由とします。また、この相続人としての地位は、他の相続人と同様に保護されるべきであるからです。
行方不明者については、「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に請求をします(民法25条)。あるいは、既に行方不明の状態が相当程度継続して、生死不明の場合には失踪宣告制度の利用が考えられます。
不在者財産管理人の選任
不在者財産管理人の選任は、利害関係人または検察官の請求により家庭裁判所が選任します(民法25条1項、家事事件手続法146条参照)。選任された不在者財産管理人は、権限の範囲は、原則として不在者財産の保存行為及びその利用・改良行為のみとなります。
不在者財産管理人とは
不在者財産管理人とは、不在者のために不在者の法定代理人的立場で、その財産の維持管理を行います。不在者の職務執行の内容については、家事手続法146条の規定により、民法上の委任の規定が準用されます。すなわち、委任の規定に準じて、不在者の財産に対し、善管注意義務を負担し、財産管理業務についての報告義務を負担します。この報告義務は、不在者本人に対しても負担しますが、同様に家庭裁判所から求められる場合もあります。
また、不在者財産管理人は不在者の財産から相当の報酬を受けることができます(民法29条2項)。さらに、不在者の財産管理において、かかった経費がある場合にはその償還を請求することができます(家事事件手続法146条6項、民法650条1項)。
不在者財産管理人はどのような場合に選任されるか
不在者財産管理人についての説明と、どのような場合に選任されるかについては、既に触れてきました。ここでは、より詳細に不在者財産管理人が選任される場合について説明をしていきます。
不在者とは厳密にいうと、広義と狭義の意味があります。既に説明したのは、広義の意味での不在者を説明しました。広義の意味での不在者とは、従来の生活の拠点からいなくなって、容易に帰宅する見込みのない者をいいます。狭義の不在者とは、容易に従来の生活拠点に帰来しない場合において、あらかじめ財産管理人をおいて不在者となる場合と、財産管理人を置かずに不在者となる場合の2つの場合をいいます。
不在者財産管理人が選任されるのは、この財産管理を置かずに不在者となった場合、利害関係人と検察官の請求により、家庭裁判所が選任する場合です。
不在者財産管理人を選任する目的は、不在者自身に関して利害関係のある者の利益を保護することを主眼としています。つまり、本稿の場合は、この利害関係人の具体例は、他の相続人となりますが、別の例を挙げると、不在者に対し金銭の貸付を行っている者(銀行等金融機関)等も利害関係人に当たります。
不在者財産管理人に選任されるのはどういった関係の者か
不在者財産管理人に必要な資格というものは特にはありません。従って、不在者の財産を適切に維持・管理できる人物であれば、不在者の親族などから選任される場合もあります。
とくに親族などに適当な人物がいない場合には、専門職である弁護士または司法書士が選任されることになります。
不在者の財産を管理するには、帳簿の作成など細かい事務作業が必要となる場合もあるので、親族がこれを担う場合は一定の負担が生じます。
実務的には、円滑に手続きを進めることを目的とすると、専門職を推薦の上、家庭裁判所に請求を行います。候補者の選び方は、各弁護士会や司法書士会に問い合わせて行います。
生死不明の場合_もはや不在者が生存の見込みがない場合
行方不明者の不在状態が、相当程度に及び、もはや生きているものとは考えられない場合に、利害関係人は失踪宣告を請求することができます。不在状態が相当程度に及ぶと、その者に対する権利関係が複雑化し、利害関係人の保護に欠けることになるからです。
失踪宣告とは_生活拠点を中心に権利関係を清算する
失踪宣告制度とは、行方不明者の生死不明の状態が一定期間継続する場合に、利害関係人が失踪宣告を家庭裁判所に請求することにより生じる死亡の効果をいいます(民法30条)。
失踪とは生死不明の状態が一定期間継続することをいい、普通失踪と特別失踪があります。
普通失踪とは、行方不明により生死不明の状態が7年間継続する場合をいいます。
特別失踪とは、戦地に赴いたり、船舶が沈没したりした場合、あるいは自然災害によって生死不明となった場合に、1年以上その生死不明の状態が継続することをいいます。
失踪宣告の効果は、普通失踪の場合は7年間の期間の満了ときに、特別失踪の場合はその危難が去ったときに死亡とみなされます(民法31条)。
この「死亡とみなされる」とは、従来の生活拠点において、死亡したものとして扱うという意味です。たとば、行方不明者が実はどこかで生存していた場合、その者のした行為は死亡した者のした行為ということにはなりません。
失踪宣告制度とは、生死不明の状態があまりにも長期に及ぶ場合や、生存の可能性の低い場合に、そのままにしておくと弊害があるので、その者の元の生活拠点においての権利義務関係を清算するという意味があります。失踪宣告を受けると死亡したとみなされるので、行方不明者につき、相続が発生することになります。
失踪宣告の申立の手続方法について
失踪宣告の申立は、行方不明者の最後の生活拠点(住所または居所)を管轄する家庭裁判所の管轄に行います(家事手続法148条参照)。なお、失踪宣告の申立は、民事訴訟法31条の規定にかかわらず、成年被後見人となるべき者及び成年被後見人であっても、手続きを行うことができます。失踪宣告の身分関係の整理的側面を重視しているための規定です。
わかりやすくいうと、例えば、高齢で意思能力の低下した場合であっても、失踪宣告の場合は自ら訴訟行為をすることができるということです。なお、未成年者は失踪宣告手続を自ら行うことはできません(家事手続法118条参照)。
具体的な失踪宣告の申立手続きについては、各家庭裁判所のホームページをご参照ください(裁判所HP http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_06/index.html)。
まとめ
相続人のうち行方不明者がいる場合には、不在者財産管理人の選任申立てまたは、失踪宣告の申立てが必要となります。いずれを選択するかは、それぞれの家族の事情によりご判断下さい。7年以上生死不明の場合であっても、必ずしも失踪宣告を申立てなければならないわけではありません。ただし、あまりに長期間にわたりこうした状態を放置するのは適切でないのも事実です。本稿では特に触れませんでしたが、例えば、行方不明者が不動産等を所有している場合、管理する所有者が長期間不在になるのは適切であるとはいえないからです。