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相続税と贈与税
相続税と贈与税、これらの名称を知らない方はまずいないでしょう。では具体的にどんな違いがあるかご存じですか?
税という文字が付いている以上、両方とも税金であることはわかるでしょうけど、その違いまで答えることができる方はそれほど多くはないはず。ではその違いを知ることでどんな利益を得ることができるのでしょう?
実は相続税と贈与税の違いを知っておけば、税金を安くすることも可能なのです。
是非この機会に相続税と贈与税の違いを理解しましょう。
決定的な違い
相続と贈与、共にある人からある人に財産が移動する(あげる)場合の名称です。
ただしこの二つの行為には決定的な違いが2つあります。
まず1つ目は最初に財産を持っている人が、財産を移動する時点で生きているか死んでいるかどうかです。財産を持っている人が財産を移動する時点で死んでいる場合にできるのが相続、死んでいても生きていてもできるのが贈与となります。
2つ目は最初に財産を持っている人が単独で行えるかどうかです。贈与は相続と異なり、諾成契約という形式に分類され、財産をあげる人と財産を貰う人とが合意しないとすることができないのです。
この2つの違いが、税金の違いにも影響を与えることになります。
税金の違い
相続と贈与に関して、税金の計算方法や税率も異なります。一般的に相続税の方が安く、贈与税の方が高く設定されています。
ではどうして贈与税の方が高く設定しているのでしょうか?
前述したように、相続は財産を持っている人が死んだ後にしかできません。つまりいつでもできる訳ではないのです。一方贈与は財産を貰う人が同意すればいつでもすることができます。当然贈与税を相続税より安くすると、誰でも死ぬ前に財産を移動させますよね。でもそうすると財産を持っていた人が急死して相続税を支払わなければいけなくなった人との間に不公平が生まれてしまうのです。税金はできる限り公平に保つ必要があるので贈与税の方が高くなっているという訳です。
相続税とは
どんな税金
相続税とは被相続人(財産を持って死んだ人)の財産を相続人が相続する場合(財産を引き継ぐこと)に掛かってくる税金のことを言います。
相続税の金額は相続する財産の価格によって変わってくる累進課税制度が取られており、相続財産が高ければ高いだけ相続税も高くなる様に制度設計されています。
対象の人と課税される範囲
相続税の対象、つまり相続税を支払う必要があるのは相続によって財産を貰った人です。
具体的には以下の表に該当する人が実際に相続税を納付することになります。
相続税の対象となる人(相続税を支払う義務がある人) 相続税が課税される範囲
(1)相続財産を得た人で、財産を貰った時点で日本国内に住所がある人 相続したすべての財産
(2)イ:相続財産を得た人で、財産を貰った時点で日本国籍を有し、日本に住所がない場合で次に該当する人
(イ)相続開始前10年以内に日本に住所を有したことがある人
(ロ)相続開始前10年以内に日本に住所を有したことがない人
ロ:相続財産を得た人で相続財産を貰った時に日本国籍を持たず、日本国内に住所がない人 相続したすべての財産
(3)日本国内にある相続財産を得た人で、財産を貰った時点で日本国内に住所がある人(ただし(1)に該当する人は除く) 日本国内にある財産
(4)日本国内にある相続財産を得た人で、財産を貰った時点で日本国内に住所がない人(ただし(2)に該当する人は除く) 日本国内にある財産
(5)上記(1)から(4)に該当しない人で、相続時精算課税の適用を受ける財産を得た人 相続時精算課税を受ける財産
計算方法
相続税の計算方法は、足したり引いたりを繰り返すので結構面倒ですが、大まかな流れだけでも覚えておきましょう。
相続税を計算する場合、5つの段階に分けて考えるとわかりやすいです。
ここでは、具体例を参照しながら確認しましょう。
例として課税遺産総額が1億円、遺言状なし(相続は法定相続とする)、相続人が妻、子供二人(成人済)と設定し、妻の相続税を計算することにします。
第1段階
計算方法
(相続などで取得した財産の価格)+(みなし相続などで取得した財産の価格)-(非課税財産の価格)-(債務費用及び葬式費用)=純資産額
純資産額+(相続開始前3年間以内の贈与の価格)=課税額
ここでは課税額を算出します。
課税額というのは税金を課する相続財産を合わせたものです。まず財産を相続する相続人が、個別に相続する財産やみなし財産(死亡保険金や死亡退職金など)を合計し、そこから非課税財産(墓地や墓石など日常礼拝しているものなど)や葬式費用などを引きます。これが純資産額となりますので、ここに相続開始前3年間以内に贈与がある場合は足してください。足して出てきた金額が課税額と出てきます。
第2段階
計算方法
3000万円×(法定相続人の人数×600万円)=基礎控除
課税遺産総額-基礎控除
次に第2段階、相続人毎に出した課税額を合算して、課税遺産総額を算出しましょう。そこから基礎控除を引いてください。
基礎控除の計算方法は、3000万円+(法定相続人の人数×600万円)で算出します。
例にあてはめてみると、妻、子供2人の場合、法定相続人は3人になります。法定相続人というのは、民法に規定されている法律上相続する権利がある人のことです。
そして課税遺産総額が1億円ですので、
1億円-(3000万円+定相続人3人×600万円)=5200万円となります。
第3段階
計算方法
(第2段階で算出した金額)×(法定相続分の割合)=法定相続分の続柄で分割した金額
(法定相続分の続柄で分割した金額)×税率=相続人の続柄毎に算出した税額
第3段階、ここは結構わかりづらいかもしれません。
まず第2段階で算出した金額を法定相続したと仮定して、相続人毎に分割します。
重要なのは法定相続したと仮定することです。実際は遺言状などで法定相続とは違う相続がされるのも珍しくはありません。しかしそういう事情を加味していると計算が複雑となるので、相続税を計算する場合は法定相続したと仮定するようになっているのです。
例にあてはめると、妻と子供がいる場合の法定相続分は妻が2分の1、子供が2分の1、ただし今回は子供が2人いますので、子供1人当たりの法定相続分は2分の1の2分の1で4分の1となります。
つまり、
妻は5200万円×1/2=2600万円、
子供1人は5200万円×1/4=1300万円
となりますね。
そして分割した金額に国税庁速算表規定の税率を掛けて、その金額から決められた額を控除してください。
妻の場合、法定相続分が2600万円、国税庁の速算表によると1000万円を超えて3000万円以下の区分となるので税率が15%、控除額が50万円で計算します。
すると
2600万円×15%-50万円=340万円となります。
一方子供の場合、法定相続分が1人あたり1300万円、国税庁の速算表によると1000万円を超えて3000万円以下の区分となるので税率15%、控除額が50万円となります。
そのため、
1300万円×15%-50万円=145万円
になります。
これで第3段階終了です。
第4段階
計算方法
(相続人の続柄毎に算出した税額)をすべて足す=相続税の総額
(相続税の総額)×(相殺の相続分)=個別の税額
第4段階はまた数字を合わせます。第3段階で出した金額を再び合わせてください。この合わせた金額が相続税の総額となります。
例にあてはめると、340万円+145万円+145万円=630万円となります。
ただこれで終わりではありません。
この相続税を今度は実際の相続分毎に分割します。
今回の例では実際の相続分も法定相続に準じているので妻の相続は2分の1となります。
つまり、
630万円×1/2=315万円になりますね。
第5段階
計算方法
個別の税額を続柄などに応じて加算又は控除を行う
第5段階、これが最後です。第4段階で分割した金額に続柄に応じて加算または税額控除を行います。これで実際に納税する額が出てきます。
では例にあてはめてみましょう。
妻の場合、配偶者控除の対象となります。
配偶者控除を適用すると1億6000万円または法定相続分相当額(第2段階で出した金額)の高い方より配偶者が実際に受け取る相続額が安い場合は相続税が課されません。つまり今回場合、1億6000万円の方が法定相続分相当額より高いので基準となります。
当然今回妻が実際に受け取れる相続額は1億6000万円より低いので配偶者控除の対象とあり、結果、妻が納付する相続税は0円となります。
全部で5つの段階を踏む相続税の計算、かなり面倒だと感じたことでしょう。ただ実際は、専門家に依頼するのが普通なので、ご自身で計算するようなことはまずないはずです。前述した通り、ここでは大きな流れを理解してください。それで十分です。
控除制度とは
相続財産すべてに税金が掛かる訳ではありません。
前述したように日本の場合、相続財産から一定の金額を控除して、その金額に税率を掛けて税金の額を算出することになっています。つまり控除額が相続財産の額より多い場合は、相続税は掛かりません。これが基礎控除と呼ばれるものです。
基礎控除は相続財産から必ず引かれるものであり、現在は3000万円+法定相続人の人数×600万円で計算します。その他、法定相続人×500万円分の死亡保険金控除等あります。
この基礎控除以外にも税額控除というものがあります。
税額控除は相続人の続柄などに応じて適用されるものであり、配偶者が利用できる配偶者控除、未成年者が利用できる未成年者控除、障害者の方が利用できる障害者控除、そして一定の期間内に複数回相続した方が利用できる相次相続控除があります。
注意点
相続税で注意しなければいけないのは申告についてです。
一般的なサラリーマンの方なら、原則税金は給料を貰う段階で引かれており(源泉徴収)、一定金額以上の給与を貰っている場合などの例外がない限り、個人で申告する必要がありません。
しかし相続税は、自分で申告して相続税を所管する税務署長(実際は税務署)に申告する必要があります。さらに申告する期限が決まっており、原則相続を知った日、ほとんどの場合は被相続人(財産を最初に持っている人)が死んだ日の翌日から10か月以内となります。
また申告して相続税を納付した結果、相続税を払いすぎた場合は、そのことを税務署に届け出て返還を請求しないと払いすぎた分は戻ってきません。ある意味自己責任ですので注意しましょう。
贈与税とは
どんな税金
贈与には生前贈与と死因贈与の2つがあります。
相続と異なり契約の一種ですので、あげる方貰う方、双方の同意がなければすることができません。贈与税も相続税と同じく累進課税制度を採用しており、贈与された金額が高くなれば高くなるほど税率が高くなる制度設計となっています。
贈与税の額は贈与された財産から110万円の基礎控除を引き、それに税率を掛けてさらに一定金額を控除して算出されます。
例えば兄から弟に500万円贈与したとしましょう。まずは500万円から基礎控除の110万円を引きます。
500万円-110万円=390万円となります。
これを国税庁の速算表で確認すると300万円を超えて400万円の場合は税率が20%、そして控除額が25万円となります。
つまり、
390万円×20%-25万円=53万円となり、
この53万円が贈与税となります。
対象の人と課税される範囲
贈与税も相続税と同じく、財産を貰った側が対象となります。
そして財産をあげる者と貰う者が一定の続柄の場合は、税率が異なります。例えば祖母や父母から満20歳を超える子供や孫に財産を贈与した場合は特例財産贈与となり、税率が優遇されることになります。
また相続時精算課税を利用すると一度だけ2500万円まで贈与税が掛かりません。その代わり贈与した側が死亡した時に一括して精算することになります。今後評価が上がる見込みの財産については相続時~制度を活用するメリットがあります。
特例制度
祖父母や父母から満20歳を超える子供や孫に贈与する場合、財産移転を奨励する観点から贈与税の税額が一般の贈与より低くなります。これが贈与の特例制度です。
例えば父から息子に500万円を贈与した場合で考えてみましょう。
普通の贈与と同じくまず基礎控除の110万円を引いた金額が390万円となり、これに特例の税額である15%を掛けて、さらに10万円を控除します。そうすると390万円×15%-10万円=48.5万円となります。つまり通常の贈与と比べると5.5万円税金が安くなるのです。
注意点
贈与の場合、基礎控除として毎年110万円までは贈与税が掛かりません。そのため総額1000万円贈与するつもりでも、毎年100万円ずつ10年間贈与する形にすれば本来(1000万円-110万円)×40%-125万円=231万円の贈与税を納税しなければいけないのが、0円となります。
ただこれは税務署から定期贈与とみなされると、1000万円分の贈与税が課される可能性があるのです。そのため、定期贈与とみなされないために毎年の贈与額を変えたりするようにしましょう。
定期贈与と認定される場合、それを証明する責任は税務署側にあり、それを証明するのは大変なので、毎年贈与額を変える必要がないという意見もありますが、税務署に睨まれても碌なことはありません。毎年贈与する場合は、できる限り定期贈与とみなされないように専門家への相談をおすすめします。
また贈与税も相続税と同じく申告義務がありますので、基礎控除額を上回る場合、毎年忘れずに申告するようにしてください。
まとめ
相続税と贈与税は共に貰った方が支払う税金であり、控除額や税額が異なっています。両方とも控除額を上回る場合は税務署に申告しなければならず、申告しない場合は追徴課税されて余計に税金を支払わなければいけません。
また今回見てきたように一般的には相続税の方が安くなる傾向にありますが、定期贈与とみなされない範囲内で毎年贈与を行えば、かなりの節税となります。必要に応じて利用してください。