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親や親族が死亡すると必ず発生するのが相続です。
ご存知の通り、相続されるのは金銭だけとは限らず、建物や土地等の不動産も相続の対象となります。
不動産相続は一生の間に何回も経験することではありません。
また周りの方に聞こうにも相続しても不動産登記の手続きをせず、そのままにしている方も案外多いものです。
そのため不動産を相続しても、何からどう手を付けたら良いかよく分からないという方が多いのではないでしょうか。
今回は小難しそうだが必ずやらなければならない手続きの手順と、それに伴って発生する費用や相続人の数によって変動する税金の計算方法までを詳しく解説していくことにします。
①不動産相続における相続登記の概要
不動産を相続したらまず必要になるのは相続登記です。
相続登記とは、亡くなった方(被相続人と言います。)が持っていた不動産を、相続した人(相続人と言います。)に持ち主が変更したことを法務局で登記することを指します。
つまりその不動産の名義を被相続人から相続人に変更する手続きを法務局で行うのです。
建物や土地等の不動産は法務局においてその所有者の氏名や住所、不動産の所在地や面積等が誰でも見られる帳簿に記載されています。
これを”登記簿”と言います。
なぜこのような登記簿が存在するのでしょうか。
不動産の売買は、売り主と買主の間で、ある程度高額な金銭のやり取りが発生します。
その時に買主の立場でお金を払う相手が本当に土地の持ち主なのか分からないと不安になることでしょう。
そのように取引の安全と円滑化を図るために本当の持ち主を登記簿に記載しておくのです。
相続が発生し、現実の不動産の持ち主が変更になったにも関わらず、登記簿上では何も変更されていなかった場合、その土地は売買もできませんし、その土地を担保にしてお金を借りることもできません。
相続登記は法律上いつまでにやらなくてはいけないという決まりはありません。そのためつい後回しにしてしまいがちですが、そのまま放っておくと将来相続した不動産の取引に支障が出る場合もあります。不動産を相続したらなるべく速やかに相続登記をするようにしましょう。
不動産登記は司法書士に依頼することができる
先述の通り、不動産の名義人は法務局に登記されていますので、相続登記は必要な書類を法務局に提出して行います。
しかし、ただでさえ仕事などで忙しいのにも関わらず、必要な書類を収集し、法務局まで手続きに出かけるのは非常に労力のいる仕事です。
もちろん不動産の相続登記は専門家である「司法書士」に依頼することができます。
そして相続が発生した場合、注意しなければいけないのが相続税です。
相続税は不動産登記と違って申請の期限があります。
放っておくと追加で課税され余計な税金を支払わなければならなくなります。
それでは必要書類や手続き方法等詳しく解説していきます。
②不動産相続に必要な資料
不動産を相続したら法務局で不動産の名義変更を行います。
不動産の名義変更を行うためにはどのような書類を準備すれば良いのでしょうか?
不動産を相続する場合、次の3つのケースが考えられると思います。
1.遺言書があり、その遺言書通りの相続を行う場合
2.民法で定められた法定相続通りの割合で相続を行う場合
3.相続人間において行った遺産分割協議に基づいて相続を行う場合
これら3つのパターンでは必要となる書類が変わってきます。
ただパターンは違っても共通して必要な書類もありますので、まずはそちらから説明をしていきます。
不動産相続において共通して必要になる書類
1.登記事項証明書
これは相続の対象となる不動産の登記簿謄本になります。
登記申請の際、法務局に提出する添付書類ではないのですが、後述する登記申請書を作成する際に参照すべき情報が掲載されている書類です。
これは最寄りの法務局で取得することが出来る書類です。法務局へは直接訪問しても、郵送で取得申請をすることもできますので、都合の良い方法で取得しましょう。
2.被相続人の最後の戸籍(除籍)謄本
被相続人(死亡した方)の死亡の記載のある戸籍(除籍)謄本を用意します。
3.被相続人の住民票の除票
被相続人が死亡時において住民票をおいていた市区町村役場で取得できます。
4.相続人の戸籍謄本と住民票
不動産を相続する人の現在の戸籍謄本と住民票を取得します。
登記の申請時点での住所を証明するために住民票を取得します。
5.登記申請書
申請書は法務局のホームページからダウンロードして作成します。
ホームページには上記3つのパターンに分けて書式や書き方の説明もありますので、参考にされてはいかがでしょうか。【※法務局のホームページにリンクが欲しいところです。】http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
6.相続関係説明図
家系図のようなもので被相続人と相続人との身分関係を表した図です。
参考例:http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001207252.pdf
7.固定資産評価証明書
この証明書記載の金額に従って、相続登記を行う際に納める必要がある登録免許税の金額が計算されます。
では上記3つのパターンによって追加で必要となる書類を解説していきます。
想定されるパターンごとに必要な書類
1遺言書がある場合
①遺言書の原本
自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で事前に検認手続きを済ませておく必要があります。
公正証書遺言の場合はその遺言書をそのまま持っていきます。(検認は不要です。)
2.法定相続割合での相続を行う場合
①被相続人の出生から死亡までの除籍謄本、改製原戸籍
これらの資料を基に法務局で相続人の確定を行います。
②法定相続人全員の戸籍謄本
法定相続分で相続する場合、不動産を相続しない法定相続人はいません。
3.遺産分割協議に基づいて相続を行う場合
①被相続人の出生から死亡までの除籍謄本、改製原戸籍
②相続人全員の戸籍謄本(不動産を相続しない人を含む)
③遺産分割協議書の原本
④相続人全員の印鑑証明書
相続人本人が自身の意思で遺産分割協議を行い押印した事を確認するために必要です。
③不動産相続における名義変更の手続き
書類を収集して、必要書類に記入をして、法務局に訪問して、不動産の名義変更の登記をするのも大変ですが、名義変更の手続きを怠ると将来もっと大変な事態に遭遇するかもしれません。
ここでは名義変更の手続きについて解説しますので、後回しにせずきちんと名義変更の手続きをしておきましょう。
不動産相続の名義変更を行うために必要な書類が揃ったら法務局に行きます。
法務局であればどこに行っても良いのでしょうか?
どこの法務局に行っても手続きが出来るわけではなく、相続登記は相続する不動産がある管轄の法務局で行います。
どこの法務局に行ったら良いかについては法務局のホームページに「管轄のご案内」がありますので、訪問する前に確認すると良いでしょう。【※法務局のホームページにリンクが欲しいところです。】
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/kankatsu_index.html
登記申請を行うためには収集した戸籍や住民票等の書類と一緒に登記申請書を作成しなくてはいけません。
登記申請書は法務局のホームページでひな形をダウンロードできます。
記載の方法も掲載されていますので、それを参考に記載しましょう。
記載例:http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001207252.pdf
ご自身では記入が難しいようであれば法務局で登記の申請に関する相談を行っているので、相談してみましょう。
ただし、相談の際にはあらかじめ予約をし、相談の際持参する資料があるかなどについても確認しておくとスムーズに進むでしょう。
書類の準備が出来ると法務局に必要書類を提出します。
相続する不動産が遠方である場合には書類の提出を書留郵便で行う事も出来ます。
登記申請には登録免許税の納付が必要となります。
通常、登録免許税は収入印紙で納めます(法務局で購入)。
登録免許税は相続する不動産の固定資産評価額の0.4%が登録免許税になるため、金額は固定資産税評価証明書を参考に算出します。
申請書にも登録免許税の記載が必要となりますので、不明な場合は管轄の法務局に問い合わせてみましょう。
無事に書類が揃って提出したとしても、その後登記官による書類の内容審査が行われます。審査の際書類に不備が見つかった場合は法務局から連絡があるので、必要な修正を行い再度提出することになります。
相続を原因とする名義変更は法務局に書類を提出してから平均で1週間程度かかります。
ただし、手続きの期間については各地の法務局によっても、また申請する時期等によっても異なります。
上記のように書類に不備があり再提出を行った場合等は登記にかかる日数も長くなります。
登記が完了した場合、法務局の窓口で登記完了証等の書類を受領します。
その際「申請書に使用した印鑑」と運転免許証等の「本人確認が出来る身分証明書」を持参します。
遠方で法務局に取りに行けない場合は書留用の返信用封筒を申請書類と一緒に送っておけば登記完了証等を郵送してくれます。
以上で不動産相続における名義変更は終了となります。
④不動産相続における相続税の計算方法
相続が発生すると気になるのは相続税です。
ここでは不動産を相続した際の相続税の計算方法について見ていきましょう。
まず相続した不動産の相続税がいくらになるのか、そもそも相続税がかかるのかを計算する前に、まずは相続した不動産の評価額から調べなくてはいけません。
土地の評価額を算出する方法を見ていきましょう。
土地の評価方法で代表的なものは”路線価方式”と”倍率方式”があります。
路線価方式
路線価方式とは国税庁が定めた土地の値段を使って土地の評価額を算出する方法です。
計算式は以下となります。
「1㎡あたりの路線価×土地面積」
この計算式に使用する路線価は毎年8月頃に公表されます。
一度国税庁のホームページで確認してみてください。【※国税庁のホームページへのリンクが欲しいところ】
http://www.rosenka.nta.go.jp/
ただし、路線価の設定のない土地もあります。
路線価の設定のない土地を評価する場合倍率方式を使用します。
倍率方式
計算式は以下となります。
「固定資産税評価額×倍率」
この計算式に使用する固定資産税評価額は3年に1度改定され、市役所等で確認することが出来ます。
また倍率は国税庁のホームページで確認することが出来ます。【※国税庁のホームページへのリンクが欲しいところ】
http://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_rtof.htm
建物の評価額を算出する方法を見ていきましょう。
既に建築が終了している建物であれば固定資産税評価額で算出します。
不動産の評価額が算出出来たら課税遺産総額の算出を行います。
不動産のほか預貯金や保険金、有価証券等のプラスの財産のほか、借金等のマイナスの財産も相続財産として計算されます。
相続税はプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた遺産相額のすべてに係るわけではなくそこから基礎控除額を差し引いた金額に係ります。
基礎控除額は3000万円+相続人の数×600万円で計算し、ここで出た金額を遺産総額から差し引きます。
遺産総額が基礎控除額より少ない場合、相続税はかからないという事になります。
※平成30年1月現在
基礎控除額より遺産総額が多かった場合に相続税が発生することになりますが、相続税の計算については国税庁が公表している速算表から税率と控除額を確認すると良いでしょう。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4155.htm
ただし、慣れない方には多少難しいかもしれませんので、ご自身のお住まいの地区を管轄している税務署に相談にいくのも良いかもしれません。
不動産を相続する場合、必ずしも相続税が発生するとは限りませんが、払う税金はなるべく抑えたいと考える方が多いのではないでしょうか。
相続税を抑える方法として「小規模宅地特例」や「配偶者の税額軽減特例」等、相続税の免除や評価額の引き下げに活用できる制度もいくつかあります。
また相続ではありませんが、次世代への相続税の負担を考えて生前贈与等の対策を取る方法もあります。
一度調べてみてはいかがでしょうか。
⑤不動産相続における相続委任状
不動産を相続すると役所に必要書類を取りに行ったり、法務局に名義変更に行ったりしなくてはなりません。
もちろん郵送でも対応してくれますが、結局は取り寄せに必要な書類の記載、作成や郵便物の投函のため郵便局に行く、等は自身で行わなければいけません。
ただでさえ、親や親族が亡くなって気持ちの整理がつかないうえに日々の生活もあるし精神的にも体力的にも厳しくなってきます。
そんな時不動産登記の手続きを誰かにお願いしたいと思うかもしれません。
また相続人が多いとき、全員がいつも揃って相続に関する手続きをするなんて現実的ではありません。そのような時は相続人の中で代表者を決めて手続きをお願いする、という事があるでしょう。
そのような時、どうすれば良いのでしょうか。
相続登記を専門家に依頼する、もしくは相続人の中で代表して手続きをお願いする、と言う場合に必要になるのが委任状です。
まず専門家に依頼する場合を見てみましょう。
専門家に委任する場合
相続登記を報酬を受け取って仕事として行う事が出来るのは法律で定められた「弁護士」や「司法書士」のみとなります。
この場合、相続登記やそれに関する業務を司法書士に委任する、という委任状を作成し提出します。これを基に司法書士は法務局に行って相続登記手続きが出来るようになります。
委任状の書式ですが、法務局のホームページにもひな形がありますが、大抵は司法書士が用意してくれますので、その書類に捺印をすることになるでしょう。
http://www.moj.go.jp/ONLINE/ELECTRON/13-1-5.html 法務省のひな型
しかし、司法書士や弁護士等の専門家に業務を依頼すると当然ながら専門家に支払う報酬が発生します。
相続人の中の一人が代表して相続登記を行うという事であれば専門家に支払う報酬は発生しません。
相続人の代表に委任する場合
一つの不動産を3人で相続するが、登記はそのうちの1人が代表して行うような場合、委任状は他の2人からもらう必要があります。
この場合、相続人が全部で5人いるが、そのうちの3人で不動産を相続するという場合、不動産を相続しない2人からは委任状はもらう必要はありません。
あくまでも、不動産を相続する人からの委任状が必要となります。
また不動産を相続する人の中でも法定相続通りに相続が行われる場合、委任状が不要になる場合もあります。
例えば、夫、妻、子供二人の4人家族を例に考えてみます。
夫が亡くなり、夫名義の不動産を法定相続通りに妻1/2、子供たち各1/4と法定相続通りに共有持ち分で登記を行うと仮定します。
妻が代表して相続登記を行う場合、上記に記載通りであれば子供たちから委任状を取らなければいけないことになります。
しかし、法定相続通りに相続登記を行う場合、委任状は不要という規則があるため、この場合は子供たちから妻への委任状は不要になります。
委任状は必要事項を正しく記載しないと意図した通りの相続登記が出来ないこともあります。法務局のホームページ等を参考にし、正しく記載するようにしましょう。
⑥相続した不動産を売却する場合について
不動産を相続したけれど、既に自分の持ち家があって相続した家に住むつもりはない。
親の家を相続したけれど、現在の住まいから遠方にあるためしばらく放置している。
と言う方は意外と多いのではないでしょうか。
ただ相続した不動産には管理責任が生じます。
つまり不動産を放っておいて庭木が倒れたり、壁が崩れたりしてご近所に損害を与えないよう所有者はきちんと管理をしなければならないのです。
また相続した不動産を使用していない場合でも固定資産税の支払いはしなくてはいけません。
管理の手間や継続的に税金を支払う事を考えて不動産を売却することを考える方もいらっしゃるかもしれません。
ここでは相続した不動産を売却する場合を主に税金面から解説していきます。
相続した不動産を売却する場合にかかる税金
相続した不動産を売却して譲渡益が出た場合には譲渡所得税を申告により支払わなくてはなりません。
ただし、相続税を支払った場合には譲渡所得税を軽減できる制度があります。
それが「相続税の取得費加算の特例」です。
相続税の申告は相続が開始したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。この相続税申告期限の翌日から3年以内に相続不動産を売却した場合に限り、相続税の一定額を取得費に加算することが出来ます。
これにより、課税対象となる譲渡所得を抑えることが出来るのです。
では3年経過した後に不動産を売却した場合は譲渡所得税を軽減できないのでしょうか?
実は不動産を売却する場合、その不動産の所有期間が長ければ長いほど税率は低くなります。所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得として税率30%、5年を超える場合は長期譲渡所得として税率15%となります。
この所有期間の起点は相続開始時ではなく、原則として被相続人がその不動産の所有を開始した日付となります。
譲渡所得は上記ほかに、住民税(短期譲渡所得9%・長期譲渡所得5%)、平成49年までの間は復興特別所得税(2.1%)が加わります。
不動産の譲渡所得税は不動産売却時の譲渡所得に対して税金がかかります。
譲渡所得は以下の計算式で求めます。
不動産を売却した際の価格‐(取得費用(不動産を買い入れた際の購入代金等)+譲渡費用(不動産を売却するのにかかった費用))⁻ 特別控除
https://www.nta.go.jp/taxanswer/joto/3202.htm
この計算で出た金額に上記の譲渡所得税率をかけて税金を算出します。
また上記で解説した「相続税の取得費加算の特例」のほかにも様々な控除や特例があります。
居住用不動産を売却する場合や土地を売却する場合に使える特例等があります。
特例や控除を知らずに多くの税金を支払う前に専門家等に相談してみるのも良いかもしれません。
まとめ
不動産を相続する場合に必要な書類から手続きの方法、発生する費用や税金のご説明をしてきましたがいかがでしょうか。
想定していたよりも、かなり面倒で且つ費用がかかることがお分かり頂けたかと思います。
“相続”は生きていれば、ほとんどの方が経験することでしょう。
“その時にやればいい。”
という考え方は危険です。
今のうちから専門家に相談しながら、準備を進めることをオススメします。