ペットは遺産相続できるか

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遺産相続とは_法律的に考える

遺産相続とは、民法に規定のある「相続」について、財産権的側面を捉えた言葉です。一般に相続とは、包括承継主義と特定承継主義があり、日本は前者の包括承継主義を採用しています。日本における「相続」とは、被相続人の権利義務(債権も債務:負債)の一切合財を相続人が引き継ぐことをいいます。
また、遺産相続の意味領域を、相続人による相続に限定せず、死因贈与契約上の受贈者や、遺言による遺贈の受遺者まで含める場合があります(相続税の課税範囲:相続税1条の3参照)。
なお、原則として相続できるのは、自然人である「人」である必要があります。権利能力の主体となり得る地位を、人間以外の動物等には認められていないのがその原因です(民法3条参照)。

不動産王「意地悪女王」レオナ・ヘムズリーのケース_ペットが1200万ドルを相続

2007年8月不動産王「意地悪女王」レオナ・ヘムズリーが多額の遺産を残してこの世を旅立ちました。彼女の人生が“came to public attention”と公衆の注目を集めたのは、1972年に不動産王のハリー・ヘムズリーと結婚してから後のことでした。また、彼女はホテル経営で実績を示し「ホテルの女王」と自称しました。
こうして、世間の注目を集めた「ホテル女王」が、最後に全世界の注目を集めた事件がありました。その事件とは、彼女が保有していた多額の財産のうち、1200万ドルを人間ではなくペットの犬に残すというものでした。このペットの犬は“Trouble”(トラブル)という名のマルチーズでした。また、ヘムズリーが巻き起こした騒動(トラブル)は、自分の孫のうち2名について、遺産を渡さず、かつ他の相続人についても、犬の“トラブル”より少ない金額しか遺産をもらえなかったことです。
アメリカのセレブの実に12%~27%のオーナーが自分のペットに相続に関係して、何らかの規定を設けているという報告があります(注1)。自分の人間の家族や親族よりも、家族同然であるペットに対し、人間の家族以上の愛情を抱き、遺産を残そうという動きは珍しくはないということです。
しかし、一般に誤解が多いようですが、上記のヘムズリーのケースがあったアメリカですら、ペットに直接遺産を相続させることができないのが現実です。ペットはやはり「動物」であってヒト(人間)ではないため、直接的には「相続人」となることができません。しかし、アメリカにおける近年のさまざまな法律技術の革新や部分的な法改正によって、ペットの療養看護という観点での相続に関する法的地位は改善されつつあります。
ペットの相続において、一般には「信託」という制度を活用して、人の相続と同様の効果を得ようとしています。一方で、アメリカでも問題となっていますが、こうした、ペットに財産を残したいという市民の動きがある中、州法の家族法における実質的な改正は行われてはいません。そのため、税制面での運用や信託財産の扱いについて、estate planning attorneys(個人財産管理弁護士)は困惑することとなっています。
参考)
1 New York Times “Leona Helmsley, Hotel Queen, Dies at 87″
(http://www.nytimes.com/2007/08/20/nyregion/20cnd-helmsley.html)
By ENID NEMY. 20, 2007
2 Washington University in St. Louis (注1)
(https://source.wustl.edu/2011/08/pet-inheritance-the-trouble-with-troubles-money/)
from “The Source” BUSINESS & ENTREPRENEURSHIP HUMANITIES & SOCIETY

日本での“ペット”事情

近年、日本でもアメリカのニューヨークの事例と同様にペットに財産を残したいと思う家族が増加してきています。しかし、日本ではまだ「ペットの相続」という新しい課題に対し、法律が対応できてないのが現実です。

日本でのペットに財産を残す試み

日本においてもいくつかペットに財産を残すための方策として、いくつかの試みが行われています。代表的な例としては、遺言書で負担付遺贈をすることです。負担付遺贈とは、従来は、残された親族の療養看護に努めることを条件として財産を与えるなどの使われ方がされていました。近年ではこの「負担」をペットの療養看護(飼育)に努めることを条件とされてきています。
また別の事例としては、信託を用いる方法があります。この方法は、受託者にペットの飼育を担ってもらい、「ペット飼育」することに対し受益権を得て、この権利を受益者(多くは委託者:ペットの元の飼い主)が享受するという制度です。

ペットは「物」?_権利の主体とはなれない“不都合な真実”

古代より法律の問題あるいは課題とする領域は、「私人間」の問題でした。
そして、現代においても法律がその対象とするのは、原則的には人間同士の問題で、日本の民法も例外を除き(法人等:例)会社)、自然人(人間)のみ権利義務の主体となり得ると規定されています(民法3条参照)
すなわち、ペットは自然人(人間)ではないので、民法上は財産権の対象である「物」という法的地位しか有しません。そのため、飼育の委任、負担付贈与、または信託のいずれの法方を取った場合であっても、直接その権利を享受(受ける)ことができません。
かならず、「人間」の介在を必要とします。
ところで、ペット、とりわけ犬猫に全くなんら保護が及ばないという考えは誤りです。
確かに、民法上は「物」でしかありませんが、動物の愛護及び管理に関する法律においては、「虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱いその他動物の健康及び安全の保持等の動物の愛護に関する事項」の範囲でその動物としての、生命が尊重され保護が与えられています(動物愛護法1条参照)。

日本における“ペット相続”のHow -To_3つの代表的方法

日本においてもペットに財産を残すことは可能です。
その糸口の1つが民法の大原則の一つの「契約自由の原則」です。つまり、現代市民法のパラダイムの中では、原則としてどういう内容の契約であっても、当事者の合意が得られれば、有効に契約締結でき、相手方にその履行を迫ることができるということです。
3つの代表的なペット相続の方法とは、①委任契約による方法、②負担付贈与(遺贈)による方法、及び③ペット信託による方法です。

委任契約による方法

委任契約による方法とは、ペットの飼育について特定の者に委任し、その委任契約に基づき、ペットの飼育についてお願いするという方法です。この方法は委任契約を基礎とし、受任者は委任者の委任行為によって、ペットの飼育を行います。
ただし難点として、原則として委任契約は、委任者または受任者の死亡によって終了するということです。しかし、これは特約によって排除することができます(最高裁判所判例平成4年9月22日旬刊金融法務事情1358号p55)。

負担付贈与(遺贈)による方法

負担付贈与(遺贈)による方法とは、ペットの飼育について(=この部分が負担部分)、贈与契約または遺贈の形式で、第三者に依頼するという方法です。1)の委任契約との違いは、「贈与」となるため、金額によっては贈与税の課税の危険があるということです。また受贈者または受遺者がペットの飼育について約束を守らなかった場合、その部分につき売買規定が準用されます。よって負担付贈与契約を債務不履行による解除(民法553条、541条参照)できますが、この場合、贈与者に意思能力が残っていることが必要となります。
また、贈与するのはペットの飼育に必要な金銭や備品等の消耗品等です。受贈者は贈与されたものを用いて、ペットの飼育を行います。

ペット信託による方法

ペット信託による方法とは、委任契約による方法に近い方法ですが、あらかじめペットの飼育に必要な経費について信託財産として分離する点で異なります。委任契約の場合には、委任事務の前払的要素により、必要経費を支払います。ペット信託による場合は、信託契約
に基づき、受託者が受益者のために、そのペットの飼育を行います。ペットという財産物の保存行為(=飼育)を信託契約の基づき行ってもらうという方式です。この場合、受託者が個人の場合もありますが、法人を設立して、その法人に信託財産の運用・保存行為(=飼育)を委ねる場合もあります。
また、信託においてその信託行為が適切に行われているか監督する立場の、信託監督人という制度があります。実務的には信託管理人を設置し、受託者の行為を監督します。信託管理人の立場は受益者のために信託行為を監督するという立場あり、その職務を担うのは、多くはリーガル的立場の人材となります。

ペットに遺産相続させたいという意思の尊重と注意点

家族以上に「家族的」存在となったペットに対し、現在の人間同士の血縁関係を重視した相続法のパラダイムは不都合な真実でしょう。
ペットに相続させたいというケースの増加は、少子高齢化社会の日本の世相も相まってこうした事情の反映と考えられます。
日本の現行法においては、ペットの相続を認めるような規定はありません。制度的に公式に予定されていない以上、法技術によって既に説明してきた方法による、遺産を相続させる方法はあります。
しかし一方で、動物が人間のように自分の意思を表示することができない以上、人間の介在が必要となります。注意点とは、アメリカの場合と同様に、不安定な制度だということです。制度的にきちんとした枠組みができていないため、例えば税制面でも、ペットに遺産を残す場合には不利となる場合が考えられます。

ペットと一緒にお墓に入れるのか

日本においては、近年ペットと共に墓に埋葬が許されるところが多くなってきています。
因みに海外はというと、前述したレオナ・ヘムズリーの場合では、愛犬の“トラブル”と一緒に埋葬されることはできなかったそうです。
問題となるのは、埋葬に関する規則ですが、この点日本のほうが比較的緩やかな場所が少なくはありません。ペットに遺産相続をお考えになる際には、ペットの死後も考慮して、お墓のことまで考えてあげるのが良いかもしれません。

まとめ

ペットに遺産相続させることは、日本の現行法上は予定されていないことです。
1923年にペットの相続が認められたアメリカであっても、いまだに時代遅れの“家族法のパラダイム”を実質的に変えるほどまでには至っていません。
ましてや、日本においてはそもそも法に予定されていないため、なおのことに制度としては不安定となります。
愛するペットが幸せにその一生を終えて欲しいという願いは、従来の家族に対して抱いていた想いを超えていき、法制度を変化させるかもしれません。

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