期限は?そのままでもいい?不動産相続したときの登記したほうがいい理由

期限はあるのか?

まず、不動産登記と呼ばれるものには、大きく分けて2種類のものがあります。1つが表示登記と呼ばれるもので、もう1つが権利登記と呼ばれるものです。

最初に挙げた表示登記についてですが、この登記は、簡単に言うと、土地や建物が完成等した際に、その物の事実状態を登記するものです。この登記を行なうことで、いわゆる登記簿というものが出来上がります。事実状態を公示していく役割を担っていますので、義務の登記とも呼ばれ、必ず行なわなくてはなりません。

ゆえに、例えば、建物の表示登記を例に挙げると、建物を新築した場合や、増築等でその建物の床面積に変更が生じた場合に、本登記の対象になります。
また、義務の登記と呼ばれているように、本登記は、変更等が生じた後1ヶ月以内に登記しなければならないと、登記する期限が法定されています。
但し、この期限を過ぎても、登記は可能ですが、過料に課されることになります。

次に、後者に挙げた権利登記についてですが、この登記は、不動産の権利状態を公示することで、他人に、自らの権利を対抗していくためのものです。本登記がないこと=権利が無いということにはならないので注意して下さい。あくまで、対抗できないだけですので、権利帰属の問題とは別になります。

ゆえに、本登記を行うかどうかは、当事者意思にゆだねられていますので、登記する期限もありません。いつでも登記することは可能です。
一般的に、相続登記と呼ばれるものは、後者に掲げた権利登記のことを指します。ゆえに、登記の期限はありません。

しかし、このために、登記されないまま放置されている状態が続き、結果、登記が事実上できなくなり、様々な問題が惹起されていることは後述します。
なお、以下の説明は、権利登記に関する説明となりますので、そのことを念頭に置きつつ、参照して下さい。

放置するとどうなるのか?

権利関係の複雑化

相続が起こると、被相続人の権利は、当然、相続人に承継されることとなります。相続関係が単純なら、権利関係の複雑化は起こりません。例えば、家族構成が、父A、母B、子供C、D及びEの3人だとして、父Aが亡くなった場合、その相続人は、母B、子供C、D及びEの3人ということになり、単純です。

しかし、次のような場合を考えてみましょう。
上記例において、Aが所有する甲不動産につき、何ら手続きをせずに放置していた場合で、のちに子供Cが婚姻し、配偶者F、その子供G,Hがいるが、Cが死亡し、同じく、子供Dにも配偶者Iとその子供J、Kの2人がいるが、そのDも死亡した場合、そのAの相続人は、Bと、Cの相続人たるF、G及びH、Dの相続人たるI、J及びK、並びに存命中のEということになります。この状態をさらに放置した状態で、さらに、Gが亡くなったりすると、そのGの相続人に、Aの相続人に関する権利は承継されることになり、どんどん相続人が増えていくことになります。
このような状態が、権利関係の複雑化を招く原因になります。

認知症等の影響

冒頭で掲げた事例において、Cが認知症等を発症し、正常な判断能力を喪失してしまった場合も、厄介な事態が生じます。
判断能力を喪失した場合、その人が行なった意思表示は無効となるため、仮に、相続関係が単純であったとしても、それら相続人の間で行なった相続手続きは、無効となります。
だからと言って、相続手続きが不可能かと言うと、そうではなく、法は、成年後見制度を設けることで、このような事態を回避しています。
しかし、成年後見制度は、家庭裁判所の申し立てが必要であり、また、今後、成年後見とされた人(被後見人と呼ばれます。)の財産は、成年後見人により、裁判所監督のもと、被後見人が亡くなるまで管理されることとなります。
つまり、相続手続きをするがためだけに、成年後見制度を利用することは、あまりにも負担が大きすぎることとなります。

行方不明者がいる場合

次に、冒頭で掲げた事例において、Dが行方不明になった場合を考えてみます。Dは、当然、その場にいないわけですから、Aの相続手続きには、参加できまえん。Aの相続手続きには、Aの相続人全員の協力が必要ですので、D不在のままでは、Aの相続手続きは、行えないことになります。
そこで、法は、不在者財産管理制度というものを設けており、本制度の利用により、相続手続きを行うことを可能にしています。
しかし、本制度の利用も、家庭裁判所への申し立てが必要となり、申立てにかかる負担も、相応のものとなります。
ただでさえ、相続手続きも煩雑なところ、他の手続きを先行して行わなければならないことへの心理的負担は、相当なものです。

相続人の高齢化

また、上記のような家庭裁判所での手続きの必要がなかったとしても、相続人自体が高齢化していると、相続人自身の体力的な問題等、事実上の問題により、手続きが進まない状況も起こり得ます。それら相続人が全員遠方に住んでいる場合などは尚更です。

戸籍や住民票の除票などが取れなくなる

相続登記手続きには、後述もしますが、必要な書類として、亡くなった人の出生から死亡までが分かる戸籍、除・原戸籍謄本及び死亡時の住所が分かる住民票たる除票が必要となります。
しかし、除・原戸籍謄本及び除票については、それぞれ、保存期間が法定されているため、一定期間を過ぎると、その取得ができなくなります。
それゆえ、あまりにも手続きを放置していると、登記に必要な除・原戸籍謄本が取得できなくなるため、結果的に、相続登記をすることが困難になる場合が生じます。

相続登記自体ができない

ここまでに掲げた事象が、それぞれ単発で起こっているようであれば、まだ対処の方法もありますが、これら事象が複合的に起こることで、手続きがさらに煩雑化し、相続登記自体ができないことになります。

不動産を売ったり、担保に入れることができない

相続登記が行われていない場合、その登記名義は、被相続人のままとなっています。
不動産を売る場合、所有権の登記名義人が登記義務者となり、その不動産の買い手となる登記権利者とともに手続きを行なうことが必要となるため、死者名義のままでは、それら手続きを行なう人間がいないことになり、手続きができません。
不動産を担保に入れる場合も同様で、担保権者と所有権の登記名義人との間の手続きが必要となるところ、手続きができないこととなります。
つまり、相続登記をせずに、不動産の処分を行うことはできません。

他の相続人が勝手に不動産を処分してしまう可能性がある

相続登記は、相続人が法定相続分で共有する状態での申請であれば、各相続人が単独で登記を行うことが可能です。そして、共有での名義だとしても、その持分を取得した相続人は、自らの権利を自由に処分することができます。
つまり、何もしないまま、被相続人名義の不動産を放置しておくと、お金に困った相続人が、勝手に、法定相続分での登記を入れて、自らの権利を処分してしまう可能性があります。
また、このような事態は、遺産分割協議がまとまっている場合も同様です。
遺産分割協議により、単独で不動産を取得することになっていた相続人が、当該協議にかかる登記を放置しておいた場合も、各相続人が単独で、冒頭の方法により相続登記を行いかつその権利を処分することが可能です。
そして、その処分は、遺産分割協議により権利を取得していた相続人に、原則対抗できることとなり、結果、単独名義とする登記を怠っていた相続人は、処分された分の持分を失うことになります。

差し押さえられる可能性

前記事例は、他の相続人との関わり合いの中でのお話しでしたが、差し押さえられる可能性についても、同様に、他の相続人との関わりの中で、でてくる問題です。
被相続人名義のままですと、各相続人が、法定相続分により、その不動産についての権利を所有していることになっています。
そして、それは、遺産分割協議が、相続人の誰かが単独で取得することになっていたとしても、登記されていなければ、第三者に対抗できないことは前述のとおりです。
つまり、相続人の中に、借金を負っている者がいたとして、その者に返済原資が無かった場合、債権者は、当該不動産にかかる、その相続人の法定相続分を差し押さえてくることが想定されます。

不動産賠償が受けられない

登記名義が被相続人名義のままでは、第三者に、相続人が権利を対抗できないのは、上述のとおりですが、その問題は、不動産にかかる賠償が発生した場合も同様です。
要は、当該不動産についての権利者が確定していない状態が公示されていることになりますので、第三者から見れば、誰に、当該不動産の権利が帰属しているのかが判然としていません。
その状況において、不動産に関する何らかの賠償義務が、第三者に生じた場合、事実上、相続人の内の一人に、当該不動産の所有権が移転していたとしても、その権利が公示されていない以上、第三者には、当該不動産に関する所有権を主張できないことになり、それゆえ、賠償を受けられないことになります。

相続登記の方法

相続登記を行なうには、不動産を管轄する法務局に、登記申請書と併せて、以下の書類を提出していくこととなります。
まずは、被相続人の出生から死亡までの除・原戸籍一式と最後の住所の記載のある除票、並びに、全ての相続人の戸籍、及び、登記名義を取得する人の住民票、固定資産税の評価証明書、遺産分割協議書があればそれと印鑑証明書が必要となります。遺産分割協議書には、相続人全員の実印での押印が必要です。
しかし、遺言書がある場合は、若干、提出するものが変わってきます。
被相続人については、死亡の記載のある除籍若しくは原戸籍と最後の住所の記載のある除票で足ります。相続人については、相続登記を受ける人の戸籍と住民票のみで足ります。当然、遺言書も必要となります。
なお、原本還付を受けたい書類については、原則、原本とともに写しを添付し、原本還付を受ける旨の証明を、写しに行っていく必要がありますが、戸籍関係については、相続関係説明図を作成し添付していくことで、原本還付手続きを取らずに、その還付を受けることができます。
また、相続登記にかかる登録免許税についてですが、固定資産税評価額を基準とし、その金額の1000円未満を切り捨てた金額に、1000分の4を乗じてでた金額につき、100円未満を切り捨てた金額を、登記申請書に合綴した印紙台紙に収入印紙を添付して納入します。

まとめ

相続登記はお早めにすませるのが吉。

これまで見てきたように、相続登記を放置しておくことは、デメリットが大きく、また、さまざまな問題を招く要因となり、その解決にも、非常に手間のかかることとなります。
特に、単独でその権利を取得している人が相続登記を放置しておくことは、自らの権利を危険にさらしていることになり、反対に、その怠慢を責められたとしても、仕方のないことでしょう。
ゆえに、相続する人が確定している場合は尚更ですが、遺産分割協議等、権利確定にかかる手続きがまだの場合は、お早めに、それら手続きを行ない、その手続き終了後は、速やかに、相続登記を申請することをお勧めします。

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