目次
生前贈与とは
生前贈与とは何でしょうか。税制改正などにより、相続税の課税対象が広がっていることを受け、生前贈与という言葉を聞く機会が増えたという人も多いと思います。生前贈与とはその名の通り、亡くなる前に資産の贈与を行うことを指し、有効活用すれば相続税額を抑えることも可能となります。
相続税の課税割合は2015年を境に大きく増えました。
その原因は税制改正です。2013年度税制改正によって、2015年以降の相続に対し基礎控除額の大幅な引き下げが行われました。それまで相続税の対象とならなかった層にも課税が広がったのです。
これが富の再分配や!と国が税収を増やしたいだけのような気がしますね。
どんなにムカついても国家権力に抗うことはできません。
なので、賢く節税しましょうというお話です。
生前贈与とはその名の通り、亡くなる前に財産の贈与を行うことです。ただ、相続にからめた生前贈与とは、単なる贈与ではなく国の税制に基づいた贈与を行うことで、将来相続人となる人の相続税負担を減らすために行われるもの。相続税対策として用いられる存命中の贈与が“狭義の生前贈与”ということになります。
将来の相続税負担を軽減するために行われる生前贈与ですが、なぜ贈与を行うことが相続税負担の軽減に繋がるのでしょうか?
それは贈与には贈与税が、相続には相続税がそれぞれ掛かることとなるのですが、それぞれの税制や税率が異なるため、という話。
生前贈与の理解には贈与税の2つのルール、「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」を理解するのがマストです。
暦年課税(通常の贈与税)
生前贈与の一般的な形 暦年(れきねん)贈与
贈与税とは、個人から財産をもらった時に掛かる税金です。贈与税の課税方法は2つに分けられますが、一般的な贈与は「暦年贈与」と呼ばれ、「暦年課税」と呼ばれるルールの下で課税されることになります。
「暦年贈与」とは、贈与財産を受け取る人が、1月1日〜12月31日の1年間で受け取った贈与財産の合計額を基に課税(暦年課税)されます。「暦年課税」には、基礎控除額110万円が設けられています。
つまり年間の贈与額が110万円以下であれば、贈与税はかからないことになります。
一度に贈与した場合にかかってくる税金は以下の通りです。
基礎控除後の課税価格/税率/控除額
200万円以下 10% 無し
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円
基礎控除を超える部分については、金額に応じた税率が適用されて課税されてしまいます。生前贈与では、この基礎控除を活用し、贈与税負担を抑えつつ、相続財産を圧縮していく方法を用いることが多いようです。
また、基礎控除を超えた場合でも、税率は段階的(累進課税)に上がっていくため、相続財産が多い場合等は、基礎控除を超えた贈与をしても相続税と比べて支払う税金が低くなるケースもある。
なお、贈与税の計算では、贈与を受け取る人(受贈者)の贈与額が基礎となるため、複数の人から贈与を受けた場合、合計が基礎控除を上回っていないかを確認する必要がある。また贈与する人(贈与者)にとってみれば、受贈者が複数いる場合には、110万円×受贈者分だけ非課税での贈与を行うことが可能となります。
さらに「暦年贈与」は贈与者が1月1日時点で60歳以上の父母または直系の祖父母であり、受贈者が1月1日時点で20歳以上の子や孫である場合には、下記の特例税率が適用される。基礎控除額は110万円で変わらないものの、基礎控除を超える額の贈与の場合、金額によっては税率が低くなるケースもあります。
基礎控除後の課税価格/税率/控除額
200万円以下 10% 無し
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円
計画的に活用すれば、非常にメリットがある制度と言えますね。
しかし注意点もあります
まず相続開始前3年以内に贈与された財産については、相続税の対象となる点。それを基に計算された相続税から支払った贈与税を差し引いた額の納税義務が生じます。生前贈与は余裕を持って計画的に行いたい。
贈与者が元気な時からからどんどん贈与を始めましょうね
また、贈与の記録を残しておくことも重要です。基礎控除の範囲内で「暦年贈与」を行う場合、申告は不要ですが、贈与の記録を残しておかなければ、税務署の調査が入った際に贈与が認められないというケースも起こり得ます。贈与契約書を作成するようにしたり、現金の贈与を行うなどの場合は、手渡しではなく銀行振込をし、資金移動の記録も残しておくべきです。
相続時精算課税
次に「相続時精算課税制度」のご説明をします。
これは受贈者が特定の贈与者から受け取る贈与財産を通算で2,500万円まで特別控除することができる制度。相続財産を2,500万円まで非課税にできる制度と聞けば、非常にメリットのある制度に思えるでしょう。
しかし、「相続時精算課税制度」はその仕組みを正確に把握しておくことが重要です。
「相続時精算課税制度」を用いて贈与された資産は、相続時に相続財産に含まれ、相続税が課税されることとなります。
贈与税は非課税となるが、相続税は発生する。
言い換えれば、相続時まで贈与財産への課税を猶予される制度とも言えます。贈与税の非課税という言葉にまどわされず、支払うこととなる相続税額をにらみながら考えましょう。
この制度では適用者が厳密に定められているようです。贈与者は贈与した年の1月1日時点で60歳以上の父母または祖父母、受贈者は贈与を受ける年の1月1日時点で20歳以上の推定相続人である子や孫に限られます。「暦年贈与」と異なり、贈与の対象者が厳格に規定されているのであります。
注意点は一度「相続時精算課税制度」を選択した場合、それ以降、同じ贈与者からの贈与で「暦年課税」を選択することは出来ないということです。「相続時精算課税制度」の利用には、金額に関わらず、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に税務署へ制度利用の申告を行う必要があり、制度利用を申告した場合、その後の贈与において年間110万円の非課税枠を用いた「暦年贈与」を行うことが出来なくなります。
「暦年贈与」での贈与余地がある人は、先にそちらを優先させるべきですね。
また「相続時精算課税制度」で住宅を生前贈与した場合、「小規模宅地等の特例」と呼ばれる制度の活用も不可となります。これは、相続財産となった住宅に同居していた家族(親族)がその相続を受ける場合、評価額が80%減額されるという相続税の特例中の特例です。
この特例を利用して住宅の評価額を減額できる場合には、「相続時精算課税制度」を選択することがデメリットとなってしまいます。
ちなみに「相続時精算課税制度」を利用して生前贈与された財産に係る相続税については、物納が不可となる点も頭に入れておきましょう。相続税の支払いに必要になる「現金」が少ない場合には特に利用に注意したほうが良いと思います。
「相続時精算課税制度」は税金の支払いを先送りにするだけの制度です。
相続財産が相続税の控除を超えてしまう場合はあまりお勧めできないような制度とも言えます。
また、相続財産の基礎控除「3000万+相続人数×600万」を超える財産が無い場合は、先に贈与しても税金がかからないという、時間のメリットがあります。
非課税枠
次に、非課税になる贈与を詳しく見ていきましょう
夫婦間贈与等の特例
生活費や教育費
夫婦、親子、兄弟姉妹など扶養家族の間で生活費や教育費として贈与されたものは、通常必要とされる範囲であれば贈与税は課税されません。家族を扶養するための出費に贈与税を課税することは適切ではないからです。
親が子の学費や下宿先での生活費を負担する場合のほか、親が子の結婚費用や出産費用を負担する場合も贈与税は課税されません。
ただし、生活費や教育費として贈与されたにもかかわらず、預貯金や株式・不動産の購入など生活費や教育費以外に使った場合は贈与税が課税されるということになります。
教育資金贈与の特例
「教育資金」と「結婚・子育て資金」についてもう少し見ていきます。
平成31年3月31日までに、30歳未満の人が父母や祖父母など直系尊属から教育資金として一括贈与を受けた場合は、受贈者1人につき1,500万円まで贈与税が非課税となります。このうち、学習塾や習い事など学校以外に支払うものは500万円までが非課税となります。
もともと、扶養している家族に対して支払う教育費に贈与税は課税されませんが、贈与された年に使い切ることが前提です。この制度は、複数年にわたって必要な資金を一括贈与しても非課税になる点が特徴です。
例としてあげると「大学にかかる費用をおじいちゃんが支援する」というような場合ですね。
この制度を適用するためには、贈与を受けた人が金融機関に「教育資金口座」を開設し、金融機関を経由して税務署に届け出る必要があります。贈与された資金は教育資金口座に預け入れ、必要になったときに引き出します。資金を引き出したときは、教育費の領収書を所定の期日までに金融機関に提出しなければなりません。
結婚子育て資金贈与の特例
次は「結婚・子育て資金」です。
平成31年3月31日までに、20歳以上50歳未満の人が父母や祖父母など直系尊属から結婚や子育ての資金として贈与を受けた場合は、受贈者1人につき1,000万円まで贈与税が非課税となります。このうち、結婚のための資金は300万円までが非課税となります。
もともと、扶養している家族の結婚費用や出産費用は贈与税の課税対象ではありませんが、贈与は結婚や出産のたびに行うことが前提です。この制度は、結婚や子育てのために必要な資金を前もって一括贈与しても贈与税が非課税になる点が特徴です。
この制度を適用するためには、贈与を受けた人が金融機関に「結婚・子育て資金口座」を開設し、金融機関を経由して税務署に届け出る必要があります。贈与された資金は結婚・子育て資金口座に預け入れ、必要になったときに引き出します。資金を引き出したときは、結婚・子育て費用の領収書を所定の期日までに金融機関に提出しなければなりません。
上記の内容は内閣府のHPでも詳しい内容の記載があります。
次は障害者への贈与です。
障害者に贈与した場合は、最大6,000万円まで贈与税が非課税になります。受贈者が特別障害者の場合は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者の場合は3,000万円までが非課税になります。
この制度を適用するためには、信託銀行に資金を信託し、金融機関を経由して税務署に届け出ます。信託口座の資金は、障害者である受贈者の生活費や医療費として定期的に払い出されます。
こちらは例として「障害を持ったお子様がいらっしゃる場合」が考えられます。
基礎控除
贈与税は、贈与額が110万円を超えない限り、基礎控除が適用されるため課税されません。そのため、110万円を超える資産を贈与する際に110万円を超えない範囲で数年に分けて贈与する方もいます。
こちらは上記の暦年(れきねん)課税ですね。
生前贈与の非課税利用をするコツ
ここで注意したいのが、同一人物から毎年、同額の贈与を受けている場合です。この場合、税務署から調査が入る可能性が高くなるので注意が必要です。もし、贈与税を安く抑えるために、数年に渡り贈与をする場合は、少額でいいから贈与税を納めるようにする、年ごとに贈与額を変えるなどの工夫をしてください。
例えば、相続税が1000万あるとして、一度に贈与すると税金は275万円。
に比べ、年間111万を贈与して10%11.1万円の税金を払う。9年かけて999万を贈与しても税金は99万9千円で、その差は175万千円です。
どちらが得かは一目瞭然ですね。
しかし、普通に相続税にも控除額があるので、生前に贈与したほうが良いかどうかは、財産の額を考慮し、ご自身で計算するか、税理士等専門家に相談するほうが良いと思います。
相続時精算課税の特例
住宅購入資金として両親などから資金の贈与を受けた場合、「相続時精算課税制度」「住宅取得等資金の非課税制度」という2つの贈与税の特例制度の適用を受けることが出来ます。
住宅取得資金準備に際して贈与を受ける場合には、「相続時精算課税制度」あるいは、「相続時精算課税選択の特例」のいずれかを選択することができます。いずれも贈与税と相続税を一体化させた課税方式であり、相続時に精算することを前提に、将来において相続関係にある親から子への生前贈与を行いやすくするための制度です。
贈与の額が非課税枠を超えた場合、一律20%の税率で課税され、その贈与税は相続の際に贈与財産を相続財産に加算して計算された相続税額から控除されます。(この際、贈与財産は贈与時の価額とします。)また贈与税額が相続税額を上回る場合には還付されます。
不動産関連でいうと「住宅取得資金の非課税制度」があります。
これは、直系尊属である両親、祖父母などから住宅取得資金として贈与を受けた場合に一定の金額が非課税(平成30年度中の契約締結で最高1,200万円)となる制度です。この制度は、単独で使うことも、相続時精算課税制度と組み合わせて使うことも可能です。相続時精算課税制度と組み合わせて使った場合、平成30年中の契約締結で最高3,700万円まで贈与税が非課税となります。
もし贈与税がかかってしまった場合に知っておくこと
贈与税がかかる場合には、財産をもらった人(受贈者)が、税金の申告と納付をする必要があります。
申告との納付は、財産をもらった年の翌年2月1日から3月15日の間に行うこととなります。
贈与税の申告と納税方法
贈与税の申告と納税は、原則、財産をもらった人が、もらった年の翌年の2月1日から3月15日までにすることになっています。
申告書は、郵便や信書便による送付又は税務署の時間外収受箱へ投函する方法のほか、e-Taxを利用して提出(送信)することもできます。
注意点
贈与税は、原則として贈与を受けたすべての財産に対してかかりますが、その財産の性質や贈与の目的などからみて、次に掲げる財産については、贈与税がかからないことになっています。
1.法人からの贈与により取得した財産→贈与税は個人から財産を贈与により取得した場合にかかる税金であり、法人から財産を贈与により取得した場合には「贈与税」ではなく「所得税」がかかります。
2.夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるもの
3.宗教、慈善、学術その他公益を目的とする事業を行う一定の者が取得した財産で、その公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
4.奨学金の支給を目的とする特定公益信託や財務大臣の指定した特定公益信託から交付される金品で一定の要件に当てはまるもの
5.地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人又はその人を扶養する人が心身障害者救済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利
6.公職選挙法の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し取得した金品その他の財産上の利益で、公職選挙法の規定による報告がなされたもの
7.特定障害者扶養信託契約に基づく信託受益権
8.個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物又は見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるもの
9.直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
10.直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
11.直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち一定の要件を満たすものとして、贈与税の課税価格に算入されなかったもの
12.相続や遺贈により財産を取得した人が、相続があった年に被相続人から贈与により取得した財産