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相続でネックになるのが贈与税
平成27年の相続税の大改正が行われたことはご存知でしょうか。
この相続税の大改正により、相続税の計算に使用される「基礎控除額」が引き下げられました。
基礎控除額とは相続が発生した場合、相続財産から一定額控除されるものです。
この改正によって基礎控除額が40%もカットされ、国税庁の調査によると平成27年には相続税を支払う対象の方が2倍に増えました。
そのため、相続税対策として生前贈与という手段を選択する方が増えてきました。
しかし、ただ贈与をすれば税金対策が出来たというわけではありません。
なぜなら贈与には贈与税という税金がかかるからです。
ただすべての贈与に贈与税がかかるわけではありません。
贈与税がかからない贈与の方法について解説します。
毎年110万円という数字
贈与税にも基礎控除があり、毎年「110万円」までは無税で贈与することができます。
これを使って生前に財産を贈与する方法があります。
生前贈与には「暦年贈与」と「定期贈与」があります。
暦年贈与とは1月1日からその年の12月31日までの間(これを暦年と言います。)に贈与した財産の合計金額に応じて贈与税を支払います。
「定期贈与」とは、一定期間にわたって一定額を給付する方法です。
例えば20年間にわたって110万円ずつ贈与する、という方法の事を言います。
「連年贈与」とも呼ばれます。
贈与税はその年の贈与額合計が110万円以下であれば支払う必要はありません。
そのため、連年贈与では110万円以下を複数年にわたって贈与をすれば贈与税もかからないし、結果的に相続財産を減らすこともできるため、相続税対策として活用されています。
しかし、これには注意が必要で、110万円きちんと20年間贈与していると、最初から110万円×20年間=2200万円を贈与する意図があったみなされる可能性はゼロではありません。
そのため、毎年必ず110万円ではなく、年によって80万円だったり、100万円だったり、110万円だったりと贈与額を変更するという方法を取ると良いでしょう。
110万円以上の贈与が良い場合もある
生前贈与は年間110万円までであれば贈与税がかからないという事をご説明しました。
財産がたくさんある方にとっては年間110万円の贈与では全然財産が減らず、相続税対策にならないという方がいらっしゃるかもしれません。
そのような方はいっその事110万円を毎年贈与するより一回で110万円以上を贈与して、贈与税を支払った方が結果的に相続税を支払うよりも安くなるかもしれません。
相続税の最低税率は10%です。
しかし、贈与税の場合、410万円までであれば、8.4%です。
もし、これ以上の贈与をする場合でも贈与の相手が20歳以上の子か孫であれば税率は優遇されています。
そのため、相続税を支払う可能性のある方は、相続税を支払う対象の価額によっては、110万円以上の贈与をして贈与税を支払っておき、相続財産を減らしておいたほうが得になることがあり得ます。
自身の財産価額でどのような贈与が適しているかシミュレーションしてみると良いでしょう。
贈与税の計算方法
贈与税は具体的にどのように計算されるのでしょうか。
今まで解説した通り、年間110万円までの贈与は非課税となります。
年間とは1月1日からその年の12月31日までの暦年の事を指します。
年間に受けた贈与の合計額で計算しますが、もし複数の人から贈与を受けている場合には、その合計額で計算します。
まとめると以下の計算式となります。
「贈与を受けた財産の合計額」 - 「基礎控除額110万円」 = 「課税の対象価額」
この計算式で算出された「課税の対象価額」に応じた税率を乗じて出た金額から控除額を引いて贈与税の計算をします。
例えば父親から500万円の贈与を受けた場合の計算式は以下の通りです。
500万円-110万円=390万円
390万円×15%(相続税の税率)-10万円(控除額)= 48.5万円
贈与税の税率や控除額は贈与をした人、贈与をされた人の関係によって変わってきますので、注意しましょう。
贈与税の早見表
贈与税の税率は平成27年以降、下記の通り「一般税率」と「特例税率」に区分されました。
国税庁のホームページに掲載されている早見表を引用します。
一般税率
この税率は「特例税率」の対象とならない贈与の場合に適用されます。
例えば兄弟間の贈与、夫婦間の贈与または他人からの贈与の場合などです。
また親からの贈与であっても、贈与された子が未成年の場合にはこの一般税率の税率が適用されますので、注意が必要です。
基礎控除の課税価格 200万円以下 300万円以下 400万円以下 500万円以下 600万円以下 1,000万円以下 1,500万円以下 3,000万円超
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 ― 10万円 25万円 65万円 125万円 175万円 250万円 400万円
特例税率
この税率は親や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与をした場合に適用されます。
贈与を受ける者は当該年に20歳になる者ではなく、当該年の1月1日に20歳以上の者でなければなりません。
また、この税率は父から20歳以上の子への贈与に適用されますが、夫の父から嫁への贈与には適用されません。
その場合には上述の一般税率が適用されます。
基礎控除の課税価格 200万円以下 400万円以下 600万円以下 1,000万円以下 1,500万円以下 3,000万円以下 4,500万円以下 4,500万円超
税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 ― 10万円 30万円 90万円 190万円 265万円 415万円 640万円
贈与の形式によっては、一般税率と特例税率の両方が適用になる場合があります。
例えば20歳以上の者が当該年の間に兄と自身の父親から贈与を受けたような場合です。
この場合、すべての財産を合算した額に対して一般税率を適用して算出した税額と、すべての財産を合算した額に対して特例税率を適用した算出した税額の合計額が納税すべき贈与税の額となります。
相続税の計算は贈与された財産の合計額で行う事に注意しましょう。
暦年贈与で注意する点
暦年贈与で注意する点
暦年贈与がどのようなものか、それに関する贈与税はどのようになるのか分かっていただけたかと思います。
では暦年贈与を利用する際に注意する点について解説します。
贈与する際に大切なのは、贈与をする側と贈与を受ける側の両方の意思表示が必要となります。これを諾成契約といいます。
例えばおばあちゃんが孫のためを思って、毎年110万円を孫名義の預金通帳に財産をうつしておいたとします。
孫はこの事を知らなければ、両者の意思表示がないと判断され、贈与ではなく、相続財産と判断されてしまうのです。
また連年贈与では、贈与のやり方によっては税務署に定期贈与と判断され多額の贈与税がかけられる場合がありますので、注意が必要です。
一度専門家にご相談下さい。
贈与の証拠を残す
では具体的にどのような贈与をすれば良いのでしょうか。
まず贈与者と受贈者間で意思表示があったと認められるために贈与をした証拠をきちんと残しておきましょう。
例えば贈与者と受贈者間で贈与契約書を締結するという事が考えられます。
そうすれば両者間に贈与の合意があった証拠になります。
贈与された金銭が振り込まれる口座の通帳や印鑑を受贈者側で管理したりすることも大事となります。
こんなやりかたは控除が認められない
生前贈与で一番避けなければならないのは、税務署に定期贈与と判断され多額の贈与税がかけられてしまう事です。
先ほど証拠を残すために契約書の締結をお勧めしましたが、契約書を贈与する際に
「毎年110万円を10年間に渡って贈与する。」
と書いてしまうと、税務署に初めから1100万円を贈与する意思があったと判断され、1,100万円に贈与税がかけられてしまいます。
このような判断をされないためにも契約書は毎年締結し直した方が良いでしょう。
生前贈与は早めがいい
生前贈与を考える際は3年という数字もポイントです。
なぜなら相続開始前3年以内に行われた贈与は相続財産に加算されて相続税が計算されるからです。
これを生前贈与加算と言います。
人はいつ人生の終わりを迎えるか分かりません。
医者に余命を宣告されてからでは、準備が遅い場合もあります。
そのため贈与をお考えの場合は、なるべく早めに準備に着手することをお勧めします。
生前贈与加算の対象は「相続または遺贈により財産を取得している」人です。
つまり、子や代襲相続が発生する予定の孫、遺贈を受ける予定である孫に生前贈与をしても無意味になってしまいます。
ただし、相続人でない人や遺贈をする予定ではない人への生前贈与をした場合、生前贈与加算は適用されません。
生前贈与加算が心配な方は相続人でない兄弟などに生前贈与をすることも一つの方法でしょう。
まとめ
暦年贈与について解説してきました。
暦年贈与は手軽に出来る有効な相続税対策なのですが、手軽さゆえに準備などを怠ると後で税務署に指摘され多額の課税がされてしまうリスクがあることもご理解いただけたのではないかと思います。
また贈与をするお考えがあるのであれば、なるべく早く実行に移すことの重要性もお伝えいたしました。
せっかく行った贈与が無意味なものとならないよう、不安があれば専門家に早目に相談し、準備を進めていかれることをお勧めいたします。